はじめに:経営企画室の役割とは?
経営企画室の役割を理解するうえで、「戦略」と「戦術」 の違いを明確にしておくことが重要です。戦略というと難しく感じるかもしれませんが、簡単に言えば**「どの方向へ進むかを決めること」** です。
例えば、東京に行くのか、大阪に行くのかを決めることが「戦略」です。それに対して、飛行機で行くのか、新幹線で行くのか、バスで行くのかを決めるのが「戦術」です。つまり、戦略は大きな方向性を決めること、戦術はその戦略を実行する方法を決めること です。
経営企画室が行う戦略の立案は、現在の会社の経営が向かっている方向がこの先どうなるのか?このまま進んでいいのか?軌道修正すべきではないか? を検討し、提案することです。ここが、現在の経営の方向をしっかり管理する「経営管理」との違いです。
さらに、戦略に適した戦術を企画することも経営企画室の役割 です。例えば、現在の営業方法が本当に最適なのか?もっと効率的な手法があるのではないか?といった点を検討し、より良い選択肢を提示することも求められます。
本記事では、経営企画室の5つの役割について詳しく解説していきます。
1. 経営戦略の企画
経営企画室の最も重要な役割は、会社の未来の方向性を決めること です。具体的には、市場の変化を分析し、企業がどの分野で成長すべきかを考えます。
PEST分析と5フォース分析
経営企画室が戦略を立案する際、外部環境の分析が不可欠です。代表的な手法としてPEST分析 と 5フォース分析 があります。
PEST分析とは?
PEST分析は、外部環境の変化を政治・経済・社会・技術の4つの視点で整理するフレームワーク です。
- P(Political:政治的要因) 例:新たな法規制の施行、政府の補助金政策
- E(Economic:経済的要因) 例:景気の動向、為替の変動、消費者の購買力
- S(Social:社会的要因) 例:少子高齢化、働き方改革、ライフスタイルの変化
- T(Technological:技術的要因) 例:AIの発展、クラウド技術の進化
5フォース分析とは?
5フォース分析は、業界の競争環境を分析するためのフレームワーク です。
- 競争業者の存在(業界内の競争の激しさ)
- 新規参入の脅威(新たな競争相手がどれだけ参入しやすいか)
- 代替品の脅威(現在の製品やサービスが他の方法に置き換えられる可能性)
- 供給業者の交渉力(原材料や商品を仕入れる側の影響力)
- 顧客の交渉力(消費者や取引先の要求が企業に与える影響)
経営企画室は、これらの分析を通じて、市場の動向や競争環境を把握し、企業が進むべき方向を企画する 役割を担います。
2. 競合分析と差別化戦略
企業が成功するためには、自社の強みを活かし、競合と差別化を図ることが不可欠です。例えば、以下のような競合分析を行います。
事例:競合分析と差別化の具体例
飲食業界の場合
- 競合A店は価格が安い
- 競合B店はメニューが豊富
- 自社は「健康志向」を売りにし、無添加食材を使用することで差別化
IT業界の場合
- 競合A社は大企業向けシステムに強い
- 競合B社はスピード対応が売り
- 自社は「中小企業向けのカスタマイズ性の高さ」で差別化
経営企画室は、こうした競合分析を行い、企業がどのように独自の強みを活かして成長できるかを企画します。
3. 組織の最適化(想定組織図の策定)
経営企画室で最も重視するのが 「想定組織図」 の策定です。
想定組織図とは、現有人員の組織図ではなく、戦略目標に対して必要な役割と能力を書き表した組織図 です。
- 現場の人員配置とは異なり、あるべき理想の役割を定義することが目的
- 現有人員を当てはめることで、不足している人材を明確化し、育成計画を立てられる
例えば、新規事業の展開を見据えた組織図を作成し、それに基づいて採用計画や人材育成計画を立てることで、企業の成長に貢献します。
4. 進捗管理方法の企画
事業の進捗管理は「経営管理」の分野ですが、経営企画室は 「事業の進捗管理方法を企画する」 役割を担います。
- KPI(Key Performance Indicator:重要業績指標) を設定し、進捗を測定する
- 売上・利益だけでなく、各部門の成果を評価する基準を設計する
- モニタリング(進捗を定期的に確認する仕組み)を簡単に理解できる形で提案する
例えば、営業部門のKPIとして「月間売上」だけでなく、「新規顧客の獲得数」や「既存顧客のリピート率」などを設定することで、より具体的な目標管理を可能にします。
5. 経営の視点を変える
経営企画室によって中小企業が一番変わるのは、経営の視点 です。
- 未来を考え、今行動する視点が持てる
- グローバルな視野を持ちながら、今日の行動を決定できる
- 短期的な売上だけでなく、企業の持続的成長を見据えた戦略が立てられる
経営企画室は、単なる業務の管理を超えて 企業の未来を切り拓くための重要な役割を担う組織 なのです。
まとめ:経営企画室の役割を理解し、企業の未来を創る
経営企画室は、単なる経営管理とは異なり、企業の未来を描き、その未来に向かって何をすべきかを企画し、実行を支援する部門 です。そのため、現在の業績管理や効率化に重点を置く経営管理とは根本的に異なる視点を持つ ことが特徴です。
経営企画室の5つの役割を振り返る
経営戦略の企画
→ 未来を見据え、PEST分析や5フォース分析を活用して外部環境を分析し、企業の方向性を決定する。
競合分析と差別化戦略
→ 競合との違いを明確にし、独自の強みを活かして市場での優位性を確立する。
組織の最適化(想定組織図の策定)
→ 現有人員ではなく、企業の戦略に基づいた理想の組織像を作成し、人材育成や採用計画を立てる。
進捗管理方法の企画
→ 事業の進捗を単に管理するのではなく、KPIを設定し、適切な評価基準を企画する。
経営の視点を変える
→ 経営者の視点を広げ、未来志向の経営判断を可能にする。
経営企画室がもたらす企業の変革
経営企画室が機能することで、企業は次のような変化を遂げることができます。
- 未来から現在を逆算した計画を立てられる → 短期的な利益だけでなく、持続的な成長を実現
- 競争力の強化 → 競合との差別化を図り、市場での優位性を確立
- 組織の最適化 → 戦略目標に沿った組織構築と人材育成が可能
- データに基づく意思決定 → 直感ではなく、数値や分析に基づいた合理的な経営判断
特に中小企業では、経営者が日々の業務に追われ、戦略的な思考に時間を割けないことが多いため、経営企画室の役割はより重要 になります。たとえ専任の経営企画部門を設置できなくても、経営者自身が経営企画の考え方を取り入れたり、外部の専門家を活用することで、企業の成長を加速させることができます。