目次
新システムの名称が「智将KI」に決定
前回、中小企業には「経営者専用ソフト」が存在せず、「通信簿経営」から脱却できない現実をお話ししました。
まず、私たちが開発中の社長専用ソフトウェアの名称が正式に「智将KI」(商標出願済)に決定したことをお知らせします。
「智将KI」の名前の由来
• 智将:城主(社長)を助ける片腕という意味
• KI(ケイアイ):経営をAI(Artificial Intelligence)でサポートすることを意味
今回は、私たちが「智将KI」を開発するに至った、もう一つの重要な動機をお伝えします。
なお、前回予告しました「通信簿経営から脱却する具体的方法」については、次回の記事で詳しく解説いたします。
亡き社長の教えが「智将KI」開発の原点になった
それは、尊敬する先代経営者の知恵を、AIによって後継者に継承できないかという挑戦でした。
30年来の盟友との別れが教えてくれたこと
優秀な経営者の突然の死
私たちと仕事上の関係が深いタクシー会社があります。そこの社長とは30年以上のお付き合いで、個人的にも経営の勉強をさせていただく関係でした。
その社長は、データ分析に長けた非常に優秀な経営者でした。売上データから配車パターン、ドライバーの特性分析まで、あらゆるデータを読み解き、的確な経営判断を下していました。
しかし、2年前にご病気で急逝されました。
事業承継の現実的な課題
優秀な幹部社員はいましたが、社長として会社全体を引き継げる人材はいませんでした。急遽、奥様が社長となり、ご子息も畑違いの業界から入社して事業を支えることになりました。
このとき、私たちが直面した課題は以下のようなものでした。
- 豊富な分析資料の活用法:先代社長が残した膨大なデータ分析資料と経営ノウハウ
- 経営判断力の継承:数値の裏にある「読み方」や「判断基準」の伝承
- 後継者育成の時間的制約:急な事業承継で十分な引き継ぎ期間がなかった現実
- 属人的ノウハウの形式知化:先代社長の頭の中にあった経営の極意を可視化する必要性
生成AIとの出会いが開いた新たな可能性
汎用AIの素晴らしさと限界
そんな時に出会ったのが、発売されたばかりの生成AIでした。
生成AIの優れた点
- 世界中の情報を瞬時に収集・分析
- 経営計画の作り方から業種別ポイントまで幅広く対応
- 24時間365日、いつでも相談可能
- 私たちも今や生成AI無しに業務が進められないほど日常的に活用
しかし、使い込むにつれて、重要な限界も見えてきました。
生成AIの限界
- 世界中から集めたデータは一般論に留まる
- 自社の現場に活用できる具体的計画にはならない
- 会社ごとの独自性(歴史・文化・過去の取り組み)を反映できない
重要な気づき:会社は一つ一つ全く違う
人間が一人一人みな違う生物であるのと同様に、会社も一つ一つがみな違います。新たな計画やノウハウを自社に適用するには、以下を考慮する必要があります。
- その会社独自の歴史や文化
- 過去の成功・失敗事例
- 組織風土や社員の特性
- 地域特性や顧客層の特徴
「自社AI」という発想の誕生
もし亡き社長の思考をAI化できたら・・・。そんな時に湧いた考えが「自社AI」でした。
「自社AI」のコンセプト
- 自社のオリジナルデータや歴史を学習
- 過去の取り組みや組織風土を理解
- 社員の情報や特性を把握
- これらを基に経営者と一緒に計画を作成
さらに発展させると
- 必要な外部情報を取り入れて自社AIに統合
- 亡くなった社長の考え方をAI化
- ご子息が先代の経営哲学を学習できる環境
- 先代の思考回路をベースに新たな計画を創造
市販AIでの実証実験:Claude活用による「先代社長AI」プロジェクト
「自社AI」のコンセプトを検証するため、市販のAIで実験を開始しました。
使用したAIツール
- ChatGPT:幅広い分析と戦略立案
- Claude:日本語機能に優れているため自社AIプロジェクトのメイン
先代社長の思考をAIに学習させる手順
ステップ1:経営思想の文書化 先代社長が残した以下の文書を収集
• 経営理念・方針書
• 過去の経営計画書
• 社員向けメッセージ
• 取締役会議事録
• 業績分析レポート
ステップ2:AIへの学習指示 Claudeに以下のような指示を与えました。
「あなたは○○タクシー会社の先代社長として振る舞ってください。以下の文書はあなたが書いた経営に関する考え方です。この内容を十分に理解し、この経営者の思考パターンで今後の質問に答えてください。」
ステップ3:段階的な対話による精度向上
• 簡単な経営課題から質問を開始
• 回答内容を先代社長の考え方と照合
• 学習内容を補正・追加
• より複雑な経営判断についても質問
手応えを感じた結果:AIによる先代社長の思考再現
この実証実験を通じて、AIが先代社長の考え方をある程度再現できることが分かってきました。
経営に関する質問をAIに投げかけると、学習させた文書の内容に基づいて、先代社長らしい回答を返してくれるようになりました。例えば、配車に関する質問では効率性だけでなく安全性を重視する姿勢が現れ、ドライバー教育については売上よりもお客様との信頼関係を大切にする価値観が反映された回答を得ることができました。
また、経営数値の分析についても、先代社長が実際に重視していた分析の順序や着眼点が回答に現れることが多く、ご子息にとって「父親の考え方を学ぶ」ツールとしての可能性を感じました。
ただし、これはあくまで文書ベースでの学習結果であり、完全に先代社長の思考を再現できているわけではありません。また、新しい課題に対しても、過去の文書にない内容については一般的な回答に留まってしまうという限界もありました。
市販AIの限界も明確に
しかし、以下の課題も見えてきました。
限界1:データ連携ができない
• 文書は学習できても、リアルタイムの経営データと連携不可
• 売上データ、配車データ、ドライバーデータなどの活用不可
限界2:新たな思考回路の創造力不足
• 学習した内容の再現は得意
• しかし先代の考えを基に「新しい発想」を生み出すことは困難
限界3:複合的な経営判断への対応不足
• 複数のデータを組み合わせた高度な分析は限定的
• 「もしこうなったら?」のシミュレーション機能が不十分
「智将KI」開発への決意
ERPとAIの融合による革新的ソリューション
この実証実験を通じて確信したのは、以下のシステムの必要性でした。
「智将KI」のコンセプト
1. ERP機能:会社内の経営に関するすべてのデータを統合管理
2. 自社AI機能:自社独自のデータと先代社長の思考を学習
3. 経営支援機能:両者を組み合わせて経営者専用の判断支援を提供
智将KIが実現する5つの価値
1. 属人的ノウハウの形式知化
• 先代社長の経営判断基準をAI化
• 後継者への確実な知識継承
• 組織の経営力底上げ
2. リアルタイム経営判断支援
• 最新データと過去の成功パターンを組み合わせ
• 「もしこうしたら?」のシミュレーション機能
• 24時間365日の経営相談相手
3. 自社特化型の戦略立案
• 一般論ではなく自社に最適化された提案
• 業界特性と自社の強みを活かした戦略
• 過去の失敗を繰り返さない学習機能
4. 後継者育成の加速
• 先代社長の思考プロセスを体系的に学習
• 実際の経営データを使った実践的教育
• 段階的なレベルアップ機能
5. 組織全体の経営力向上
• 管理職層への経営知識共有
• 社員の経営参画意識向上
• 全社一丸となった戦略実行力
業種別「智将KI」で実現したい活用案
飲食業での活用案
先代オーナーの知恵×リアルタイムデータの組み合わせ
• メニュー開発:過去の成功メニューの特徴を分析し、現在のトレンドと組み合わせた新メニュー提案
• 仕入れ最適化:先代の仕入れに対する考え方と食材ロスデータを組み合わせた効率的な仕入れ計画
• スタッフ教育:接客に対する理念とスタッフ個々の特性データを活かした教育プログラム
小売業での活用案
創業者の商売哲学×現代の購買データの融合
• 商品構成:過去の売れ筋商品の傾向と現在の顧客動向を組み合わせた品揃え提案
• 店舗運営:効率的な店舗運営のノウハウとリアルタイム売上データを活かした運営改善
• 顧客対応:顧客満足向上の考え方と個別顧客データを組み合わせた接客向上
サービス業での活用案
経営者の人材活用術×業務効率データの活用
• サービス改善:顧客満足向上への取り組み方とお客様の声を組み合わせたサービス向上策
• 人材育成:人を活かすための考え方と個人別の業務データを活かした成長支援
• 業務最適化:効率化に対する姿勢と実際の作業時間データを組み合わせた改善提案
自動車整備業での活用案
職人気質の技術継承×デジタル管理の組み合わせ
• 技術継承:ベテラン整備士の技術に対する考え方と作業データを組み合わせた技術向上支援
• 顧客管理:信頼関係構築への取り組み方と車検・整備履歴を活かした顧客サービス向上
• 経営効率化:工場運営に対する考え方と設備稼働データを組み合わせた効率化提案
よくある質問(FAQ)
Q1: 「智将KI」と一般的なAIとの違いは何ですか?
A: 一般的なAIは世界共通の知識を提供しますが、智将KIは自社の歴史・文化・先代経営者の思考を学習した「自社専用AI」です。一般論ではなく、御社に最適化された経営判断支援を提供します。
Q2: 先代社長が文書を残していない場合でも活用できますか?
A: はい。現在の経営者や幹部社員へのヒアリングを基に経営哲学を構築できます。また、過去の業績データや意思決定履歴からも学習パターンを作成可能です。
Q3: どのくらいの期間で先代社長の思考を再現できますか?
A: 基本的な思考パターンの再現は2-3ヶ月程度から可能です。ただし、精度向上は継続的な対話と学習により、6ヶ月〜1年かけて向上していきます。
Q4: セキュリティ面での心配はありませんか?
A: 智将KIは自社専用システムとして構築され、機密情報は外部に流出しません。クラウド型とオンプレミス型から選択でき、セキュリティレベルに応じた運用が可能です。
Q5: 導入コストはどの程度を想定していますか?
A: 従来の大企業向けERPシステムよりも大幅に安価な設定を目指しています。まだ開発段階のため確定的な価格をお示しできませんが、中小企業でも現実的に導入可能な価格帯を目標に開発を進めています。
智将KIが目指す未来:「経営者の右腕」を目指して
単なるソフトウェアを超えた存在を目指して
智将KIは単なる業務効率化ツールではなく、経営者の補佐を務める役員の一部のような役割を担うソフトウェアとして開発を進めています。
智将KIの役割
• 経営参謀:戦略立案時の相談相手
• データアナリスト:複雑なデータの分析と解釈
• シミュレータ:「もしも」の状況での影響予測
• 教育者:後継者や幹部への知識継承
• 記録者:重要な経営判断の記録と学習
智将KIが目指したい方向性
智将KIの役割として考えているもの
• 経営参謀:戦略立案時の相談相手
• データ分析支援:複雑なデータの整理と解釈のサポート
• シミュレーション機能:「もしも」の状況での影響予測
• 知識継承ツール:後継者や幹部への知識共有
• 記録・学習機能:重要な経営判断の蓄積と活用
中小企業経営支援の新しい可能性
大企業には経営企画部門や経営コンサルタントがついています。智将KIにより、中小企業でも同様の経営支援を受けられる環境を目指したいと考えています。
実現を目指す価値
• 経営の質的向上:データに基づく経営判断の支援
• 後継者育成支援:体系的な知識継承の仕組み
• 組織力の強化:経営情報の共有による全社参画
• 競争力の向上:効率的な経営支援による競争力強化
次回予告:「通信簿経営」から脱却する具体的方法
【8月上旬配信予定】
「『通信簿経営』から脱却せよ – 決算書が教えてくれないこと」
前回予告した内容を次回詳しく解説します。
• なぜ決算書だけでは経営判断ができないのか
• 決算書や試算表さらにKPIでは「見えない情報」
• 戦略・戦術・の経営者の思考をERP+AIで表せないか?
また、海外開発チームとの連携による劇的なコスト削減の仕組みについても順次お話しします。
この記事のまとめ
1. 事業承継の課題:優秀な経営者の知恵をどう継承するか
2. 生成AIの可能性と限界:汎用AIでは自社特化型支援は不十分
3. 自社AI」の実証実験:市販AIでも先代社長の思考を一定程度再現可能
4. 智将KIのコンセプト:ERP×自社AI×経営支援の融合
5. 目指す未来:経営者の右腕となる革新的ソフトウェア
読者の皆様へ
この記事を読んだ経営者の方で、自社にとって活かせる方法・活かしたい方法があれば遠慮なくご意見・ご感想をお寄せください。大企業にしかできなかった経営を、私たちが作る経営者向けソフトウェア(智将KI)によって中小企業経営者のものとすることが私たちの望みです。
特に、事業承継や後継者育成でお悩みの経営者の方からのご相談をお待ちしております。